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ボッティチェルリ、ミケランジェロ、ラファエロ。巨匠たちのトンド(=円形画)の競演を見た。

 ■□■□■   【ウフィッツィ美術館で、ルネサンスの名宝を見て歩く⑤】  ■□■□■   

 

トンドと言う絵の形態をご存じだろうか。トンドとはイタリア語で「丸い」と言う意味らしいですが

文字通り円形画。まるでカーブミラーのように、広角で凝縮された世界が描かれることが多い

ルネサンス期にことのほか好まれた形態で、出産祝いなど、多分に贈答的な意味合いでも使

われ、ボッティチェルリを始めミケランジェロも、ラファエロら我らが巨匠たちもこのトンドをもの

しています。さて、最初はボッティチェルリの「マニフィカトの聖母」。

 

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サンドロ・ボッティチェルリ 「マニフィカトの聖母」 1483-85 直径118cm テンペラ・板  

ウフィッツィ美術館(フィレンツェ

 

ウフィッツィ美術館の絵画の展示では、ボッティチェルリの部屋が最大。その中でこれが僕の

一番好きな絵かもしれない。超有名な「ヴィーナスの誕生」を差し置いて・・・。現代にも通じる

ファッション性が、いいんですね。小気味よい輪郭線、コスメチックな色あい、唇などの官能性。スカーフのデザインなどもしゃれてますねえ。画題がマニフィカト(マリアをたたえるキリスト教聖歌)にしては宗教的な説教臭も全くなく、聖母子は人間と同列な存在として描かれているのルネサンス的です。画面からは、信仰のしばりから抜け出した放逸な空気さえ感じられます。同時に早くも憂愁の匂いも放っていて、これはボッティチェルリ特有のものですが、腐る寸前の高貴な果物のような気もします。絵の直径は120センチ程あるので、けっこう大きいです。

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次のはミケランジェロです。これもウフィッツィの所蔵する名品中の名品。彫刻家で

絵の作品はシスティーナ礼拝堂の大型フレスコ画が主なので、この板絵は貴重です。

 

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ミケランジェロブオナローティ「家族と幼児洗礼者聖ヨハネ」(トンド・ドーニ)

150406頃 120×120 テンペラ・板 ウフィッツィ美術館(フィレンツェ

 

いろんな見方ができるトンドですが、彫刻家らしくマリアの体を捻転させた身体表現とピラミッド

な構成美はさすが。色は金属的なまでにシャープでスピードと運動量が豊かな点も、斬新です。マリアは力強いハンサムウーマンとして描かれ、ミケランジェロに共通する女性像の好みです。また、それまで影の薄かったイエスの養父ヨセフも、彼の手になるとかくも立派になってしまう。ちなみにミケランジェロの思い抱く神の像は、あくまでも男神。女性神は頭になく、システィーナの「アダムの創造」などでも、男神を思い入れとともに威厳をもって描いています。同じ天才でもダ・ヴィンチのばあいは真理探究に徹した科学者ゆえ、人の姿をした神、という事は全く想定外ではなかったかと僕は思います。この辺が盛期ルネサンスの二人の思想の違いでしょう。                           

 

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ラファエロ・サンティ「小椅子の聖母 1514 油彩・板 71×71パラティーナ美術館(フィレンツェ

 

このラファエロのトンド、「小椅子の聖母」は実はウフィッツィ美術館でなく、すぐ近く、アルノ川

のポンテヴェッキオを渡った「パラティーナ美術館」で見ることが出来ます。美人画と言うジャ

ンルを作ったのはラファエロではないかと思うほど巧みで、古典性とトレンディを兼備しています。彼の作風には先行する画人の成果がすべて流れ込み、同時に新しさがここから流れ出したと感じさせるところがあります。次世代の巨匠、ルーベンスレンブラントらの画家の源流とも見て取れます。彼の作品を通じて心憎いのは、描きすぎず筆の止め方を知っていたこと。多様な理解と共感の余地を適切に残している点も天才の技でしょう。