NHKの朝ドラ、「マッサン」のヌード・ポスターと、このカラヴァッジオは、とても似ていないか?

 

■□■□■カラヴァッジオの偉大さを、いまさらながら発見して驚嘆した1/2 ■□■□■

 

毎朝、NHKの「マッサン」を楽しみにしている人は、このニューズレターの読者にも多いでしょうね。

本物のウィスキーを日本で、と意気込んで純な技術志向のマッサン。一方、「売れて何ぼやろ」と

販売志向の鴨居社長。二人の対立が軸となり、大和なでしこ以上にけなげで献身的な外人

妻、エリーが絡んで物語りは進展してゆきます。

ドラマの中で鴨居社長のマーケティング手腕を象徴したのが、太陽ワインのヌードポスタ

ーでした。実際には当時の寿屋(今のサントリー)が赤玉のヌ―ド・ポスターを世に出し

て大ヒット。商品も売れに売れたという史実を下敷きにしています。

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ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ ≪ バッカス 1595年頃 フィレンツエ ウフィッツィ美術館

 

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ところで、僕は広告史に残る赤玉ポートワインのクリエーティビティに今も敬意を払うものです。広告

精神の塊みたいな作品。難点は出来すぎなくらい良く出来ている点。しかし前後の脈絡もなく、突然、

富士山のように独立峰として燦然と輝く作品が誕生しえたのはなぜだろう?大正期の広告クリエー

ターの才能がすごかったんだ、と言ってしまえばそれまでですが。

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ところが最近、カラヴァッジオに多大な興味を持って、フィレンツェのウフィッツィ美術館の所蔵する

この名作を見ているうちに、ハハンと解りました。赤玉は、カラヴァッジオを手本にした!のだと。

そう考えると、すべて説明がうまくつきます。上の二つの画像をよくご覧あれ。バッカスは片肌脱ぎ、

赤玉はもろ肌脱ぎ、体の向きを反対にして、ボリュームたっぷりのカツラはどちらも同じで、頬がポッ

チャリした趣味も似ているではありませんか。酔眼のバッカスは早くも腰紐を解いてベッドへ誘おう

としているし、赤玉のヌードがその先に暗示していることも恐らく同じでしょう。

先日知ったのですが、カラヴァッジオのこの「バッカス」は、1917年にウフィッツィの倉

庫で発見されたのだとか。赤玉のポスターが作られたのは1922年(大正11年)なので、

この間に名画発見の大ニュースが図版とともにわが国にも伝わり、それを目ざといアドマン

が「これや!」とばかり飛びついて記念碑的な作品を作ったのではないか、そう推理します。

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それはともかく、カラヴァッジオは殺人犯で男色趣味で、喧嘩に明け暮れ、逃亡旅行の果

てに若くしてローマ近郊に客死する──。この話だけを読むとトンデモな奴に思えるかも

知れませんが、画家としての腕はこの上なく確かで天才肌。写実性に満ちた筆致はすでに

新時代の到来を告げていました。また聖書・神話の解釈においても、すこぶる辛らつなリ

アリズムを発揮して、オツに澄ましたルネサンスの理想主義に痛棒を食らわし、近代への

橋渡しをしたと僕は思います。彼はのちのレンブラントやベラスケスに大きな影響を与え、

さらにマネたちの近代を呼び出します。実に重要な美の巨人であったと言えるでしょう。

次回はその辺を(つづく)。

                          

■ニューズレター配信  ものがたり創造研究所  美術評論家 岩佐 倫太郎