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建て替え工事のため、5月18日から、休館。思い出の名画名作と別れを惜しんできた。

 

八重洲通りのブリヂストン美術館。ここがビルの建て替え工事のため、45年休館すると聞いて、

東京に向かいました。美術館の所蔵するモネ、ルノワールセザンヌらの印象派などを中心と

した珠玉のような名品の数々が思い出され、もうこのまま数年も会えなのかと思うと、愛惜の念

が抑え切れなかった。これもまた、恋情と呼ぶんでしょうかねえ(笑)。

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ポール・セザンヌ 《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール1904年―06年頃 油彩・カンヴァス 

遠近法の収束が山と城でバラバラなのが見所。卓上の果物同様、ルネサンスの原理は破壊されている。

 

 

さて、ふだんは至近の地下鉄銀座線の京橋駅を利用するのですが、今回は東京駅から向かいました。

館とは反対側の歩道を進んで、交差点で対角線に建物を見ると、築後50年以上たってるにもかかわ

らず、デザインはなかなかイケてるんです。今までちょっと気づかなかった。ニューヨークのMOMAを

手本にしたというだけあって、街角に溶け込み実にさりげない。俺はすごいぞ!みたいな肩を怒らせた

ところが無い。サインもシンプルで、路面なので美術館というよりギャラリーのような軽さがとてもクー

ル。ファサードは改修してるでしょうけど。

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前置きはこの辺にして、絵の話です。ここは印象派だけでなく、抽象画もクレー、カンディンスキー

の優品を所蔵し、現代だとポロック、ザオ・ウーキーなども。すごい選択眼ですよねえ。僕は今回、

「具体」の白髪一雄まで蒐集しているのを初めて知って驚きました。ここに通うだけで、日本と西欧

の近代美術史が通観できる。それも最良の代表作をそろえて。恐るべきコレクションです。

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クロード・モネ《黄昏、ヴェネツィア1908年頃 油彩・カンヴァス

 

「ベスト・オブ・ザ・ベスト」と名づけられた今回の企画展、その中でも敢えて個人的なベストワン

を選ぶとすると、この《黄昏、ヴェネツィア》。モネ晩年の傑作です。自然が生んだ一瞬の美。天地

が逆転したような風景を、日本の浮世絵師のように面白がっている画家がいます。画調ももう余

計なものは全部捨てて、何かを説明するという絵の役割も放棄して、そこにあるのは夕日

のオレンジと空と海のブルーだけ。美しいを通り越して何か凄みがありますね。モネは、セザン

ヌから非情なレンズのような眼力だと、賛嘆されていますが、光と空気の表現に命をかけた画家の、

前人未到の境地をここに見る思い。

                                                                

聖書の影響下にある西洋画では、一見このような主題の無い、人物も物語りも無い絵は、軽視さ

れがちでした。しかし幸いかな、この絵は招来されて日本にあります。日本人は俳句や短歌、浮世

絵などを通じて、ことのほか深い自然観照の態度を養ってきたのはご承知のとおり。それゆえわが

国は世界の中でも印象派の真意をもっとも正しく理解する国のひとつではないでしょうか。こん

なモネの傑作と東京で会えるわれわれ自身もまた幸運であるといわねばなりません。美術ファンな

らずとも、見逃すのがもったいない展覧会です。

                            

517日(日)まで (休館日はご確認ください)

http://www.bridgestone-museum.gr.jp/

 

ニューズレター配信  ものがたり創造研究所  美術評論家 岩佐 倫太郎 

 

 

 

ブリヂストン美術館の名作については、小生の近著 「東京の名画散歩」――印象派琳派が分かれば絵画が分かる(舵社)でもページを割いています。 amazonなどで検索してみてください。