燕子花(かきつばた)と紅白梅の屏風。いずれも琳派の巨匠、尾形光琳の代表作でかつ、国宝です。
紅白梅図は熱海のMOAで見ている人も多いでしょうが、両者が一堂に会するという、夢のようなマ
ッチングが、東京・南青山の根津美術館で実現しました。17日で会期を終えるので、もう余り時間が
ありませんが、今後こんな機会があるかどうか。美術ファンでまだの人には、必見の美術展です。
国宝 燕子花図屏風(びょうぶ) 6曲1双(上が左隻)尾形光琳筆 江戸時代 18世紀 根津美術館蔵
ところで、今年は「琳派400年」。何故400年なのかというと、どうやら俵屋宗達と並んで琳派の開祖
とされる本阿弥光悦が、京都北郊の鷹峯(たかがみね)に徳川家康から土地を拝領して、職人たちを
集めて芸術村を作ってちょうど400年なのだそうです。
光悦(1558-1637)は陶芸や書、工芸に優れ、いわばルネサンス型の万能人。宗達ともコラボして数
々の名品を生み、今日言われる琳派の基盤を作りました。僕が光悦に惚れるのは、そのアマチュア
精神の品位の高さ。茶碗も蒔絵も、純な遊び心に満ち、誰のためでもなく自分のために作っている。
人の気に入られようなどとした上目遣いなところは微塵もありません。
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さて、光悦からきっかり100年後に生まれた光琳。二人は姻戚関係で血のつながりもあります。光琳
は、光悦の王朝思慕や桃山文化の外向きで派手でエキゾチックな精神を継承しながら、装飾的でグ
ラフィックな世界観を展開します。上に見る屏風など、環境芸術、空間芸術ともいえますね。美術が調
度品でもあるわけです。ついでながら言っておくと、屏風を西洋画のタブローのように1枚の平面の絵
としてしか見ないのは、正しい見方ではないです。画家も一望性を拒否して、屏風の屈曲を十分意識
して画題やストーリ―を展開していますから。時に予期しない画像が隠れていて驚いたりするのも屏風
の楽しさです。ともかく、今日のわれわれ日本人も、グラフィック感覚は光琳の血を受け継いでいます。
僕のばあい燕子花を目の前にして、絵の反復や引用のリズムにモーツァルトを感じてなりませんでした。
国宝 紅白梅図屏風 尾形光琳筆 2曲1双 江戸時代 18世紀 MOA美術館蔵
次に紅白梅ですが、久しぶりにナマを見て感動を新たにしました。横幅約3、4mの大型なサイズもさる
ことながら、印刷などと違って、左隻の白梅の輝きが断然違うんです。照明もうまいんでしょう。それゆえ
濃密な空間が豊かに立ち上って、絵画的な完成度にはちょっと身震いを覚えるほどです。燕子花が才
気にあふれる実験的な作品とすると、10年後のこちらは光琳のたどり着いた最高峰。工芸と絵画が見
事に止揚されて、前人未到の神韻とも言うべき境地に至っています。
5月17日(日)まで(休館日はご確認ください)。
http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/
■ニューズレター配信 ものがたり創造研究所 美術評論家 岩佐 倫太郎
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