■ 東洋陶磁美術館 【黄金時代の茶道具 ―17世紀の唐物 2の①】 ■
大阪中之島の東洋陶磁美術館。青磁・白磁などの世界的な優品を所蔵することで知られるが、
今回の「黄金時代の茶道具」も力の入った企画展です。関西でこれだけ、茶道具や茶碗が一
堂に会したことが果たしてあったのか、記憶にはちょっと無い。行くたびに気に入った茶碗が
見つかるものですから、ついつい呼び寄せられるようにして何度か通った。そうするうち、舶来
品(唐物)として珍重されてきたはずの宋や元の壮麗華美な茶道具の趣味が、次第に日本人
好みのテイストになり、ついに現代のわれわれの美意識とも通じるものに、短期間でドラマティ
ックに変化している様子が見て取れてきました。またそれが、日本独自の茶の湯文化を発生
させ、進化させたのだろう。たかが茶碗なんですが、感興を催すこと大なり!
国宝・油滴天目と天目台 建窯 南宋時代 12-13世紀 大阪市立東洋陶磁美術館蔵
それでは早速、見ていきましょうか。上のはもうご存知の国宝「油滴天目」(ゆてきてんもく)。
東洋陶磁の持つ国宝のうちの1点です。日本でも、茶碗の国宝はわずか8点だけ。油滴天目
は黒磁に釉薬がはじけて、まるで水面に油を落としたように金・銀・紺などの斑紋が奇跡的に
浮き上がったものですが、この威風堂々たる姿はどうでしょう。硬質な黒磁の宝飾品ですね。
下の赤いのは漆を塗った天目台。両者一体となって、付け入る隙も無いゆるぎない造形美に
圧倒されます。碗の口径はわずか12..2センチなんですが・・・。
殿様好み、将軍好みとはこういったものなのでしょう。代表的な唐物(からもの)の茶碗。招来
の時期はわかりませんが、権勢と栄華を極め、対明貿易を独占した足利将軍家に賞玩され
たと想像するのが、妥当かと思われます。作られた時期は12-13世紀、南宋時代。
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さて、それでは下の茶碗はどうでしょうか。13-14世紀、南宋または元の時代の作です。
もうまったくバブリーなところはありません。なんという抜けのよさ。色味も天目茶
碗と比べると、虚を突かれるほどにナチュラル。侘びの風情とはこういうことですか。
珠光青磁茶碗 銘遅桜 同安窯 南宋時代~元時代 13-14世紀 根津美術館蔵
侘び茶の開祖と仰がれる村田珠光(むらたじゅこう=1422または1430 ~1502)が、所有した
とされる珠光青磁茶碗、銘遅桜。おそざくら、とは、青葉交じりのということでしょうか。注目す
べきは青磁釉がかかって、枇杷色に潜む青色の気品と、晴朗かつ閑静な器の面持ちでしょう。
豪華とは無縁、欲得や権勢の表現とも絶縁した美意識がすでにここにはあります。
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足利の将軍から珠光まで、わずかの時間で日本人の選択の美意識はここまで変容を遂げま
した。その美意識は、さらに精神性を深め、中国の世界観には無かった井戸茶碗を見出し、
また桃山の陶器を創造していきます。これはちょうどそのつなぎ目に位置する、日本人の美意
識を、転轍機のように大きく切り替えた茶碗ではないかと想像し、改めてこのような美を美とし
て発見した珠光の偉大さに思い至りました(つづく)。 HP→ http://www.moco.or.jp/
6月28日(日)まで 月曜日休館 画像は大阪市立東洋陶磁美術館提供
■岩佐倫太郎 講演会のお知らせ■
6月28日(日)、宝塚市中央図書館にて、小生の美術講演が開催されます。
時間は2時半から4時まで(2時10分開場)。2階の会議室。多くの画像をご覧
いただきながら、絵の見方を楽しんで知って頂く趣向です。阪急・清荒神駅の駅
前です。お近くの方、沿線の方はぜひご参加ください。無料。当日先着順です。
近著 「東京の名画散歩」――印象派と琳派が分かれば絵画が分かる(舵社)
■ニューズレター配信 美術評論家 岩佐 倫太郎