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狩野派の美術館とも言える二条城だが、隠された徳川の政治的意図は何か③

1615年の大坂夏の陣で政権を確定した幕府は、京都の朝廷対し露骨な干渉を行う一

方、秀忠の娘、和子(まさこ)を後水尾天皇に入内させ、朝廷の外戚となるのに成功します。

これは美術史的に見て、別の意味で大事件でした。のちの尾形光琳という江戸初期の天

才絵師を生む契機になったからです。と言うのは和子は大変な着物道楽、親元・徳川

の余りある財力を光琳・乾山兄弟の生家である呉服商の「雁金屋」(かりがねや)につぎ

込んだからです。雁金屋もとは浅井家の家臣。和子は浅井3姉妹の末っ子、お江の娘

です。そのためか破格な引き立てを受け、光琳の祖父の時代には莫大な財産を築きます。

光琳が働きもせず40歳を過ぎるまで道楽を繰り返せたのもその遺産のせい。一人の天才

を生むためには、天命は膨大な時間と金を要求したともいえます。もし生活のためセコセコ

と彼が働いたりしていたら大成は望めず、《紅梅白梅図屏風》や《杜若図屏風》などの今日

の国宝も生まれなかったでしょう。光悦の場合も、光琳にもやはり徳川の力が働いています。 

f:id:iwasarintaro:20160115090704p:plain京都中心部の地図  和子入内は二条城から御所へ、行幸は御所から二条城へ。両者はごく至近にある。

 

さて両家の関係は6年、今度は後水尾天皇の二条城への行幸が行われます。徳川方は

二条城を拡幅し本丸を築き、内堀を掘り、行幸御殿を新築するなど大変な準備をしますが、

れも幕府の支配力を内外に誇示し、朝廷を取り込む思惑です。当日は上洛した秀忠と

の子の家光(和子の実兄)が行幸を迎えます。二の丸御殿は、狩野探幽と門によって

豪壮優美な障壁画や天井画新しく描かれ、目もくらむばかりに荘厳されています。そ

の日から5日にわたって、和歌、茶会、蹴鞠など王朝風の雅びな遊興が尽くされました。

 

                 

さて、ここから先は僕の想像です。歓を尽くして過ごした最後の日、このを待っていたよう

に、秀忠、家光親子は本丸に新築した天守天皇らを招きます。「遊びはひと休みして、京

の景色を雲の上からご覧になりませんか」、とでも誘ったのでしょう。一行は5層の新天守

の階段を息を弾ませて登ります。最上階に達すると、眼下に広がる京の景色を見た女たちは

息を呑んで無邪気な歓声を上げている。その傍らで天皇は、背中にゾクッと冷や汗が流れ落

ちるのを感じていたに違いない。

なぜなら、自分たちの住まいがかくも克明に見えてしまっていることに気づいたからです。仮

りに手渡された望遠眼が無かったとしても、自分たちの行状や来客の往来など筒抜けでは

ないか!奉られているつもりが、実際は囲われ暮らしぶりを見張られる虜囚でしかないと悟り、

屈辱的な敗北感にとらわれた。そして心底気分が悪くなり、激しい不機嫌と悔恨を抱え鬱々

と帰途に着いたのではないでしょうか。     

                            ●

心を無くさせ操り人形を作る──実はそれこそが徳川の狙いでした。後年、後水尾院は都                                        

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心を離れた比叡山麓に広大な修学院離

宮を造営ますが、それは二条城のパノ

プティコンの牢獄から自由になりたいがた

めの脱出作戦であり、幕府確執に対

して、せめてもの意趣返しを行ったのでは

ないかと僕は考えています(この項、完)。

修学院離宮(浴竜池) 皮肉なことにこれも徳川遺産

 

京都市二条離宮事務所のHP 間取り図の丸いボタンを押すと部屋の様子がパノラミックに見れる優れものです。↓

http://www2.city.kyoto.lg.jp/bunshi/nijojo/nijoujou0930amana-p/nijoujou0930amana-p/tour.html 京都市ききょょう都市京都市京都市文化市民局元離宮二条城事務所ょ文化市民局元離宮二条城事務所

                       

ニューズレター配信 美術評論家 岩佐倫太郎 

 

 

■後記

光悦の鷹が峰の芸術村。誕生させた目的は何だったのか?和子入内を調べているうちに、真相が見えてきました。

次回ニューズレターは抽象絵画の見方について。そのあと、1615年の芸術村と入内の関係性の自説を公開する予定。

 

参考文献;

・「天下人の城大工―中井大和守の仕事Ⅲ―」中井正知・谷直樹・山本紀美・戸柱美智代 編集・執筆

大阪市立住まいのミュージアム(大阪暮らしの今昔館)発行

・「新発見 洛中洛外図屏風」 狩野博幸 青幻社刊

・「二条城二の丸御殿障壁画ガイドブック」元離宮二条城事務所 編集・発行

・「豊国祭礼図を読む」 黒田日出男 角川選書

・「後水尾天皇」 熊倉功夫 岩波書店 同時代ライブラリー

・「wikipedia」の当該項目ほか

 

画像;岩佐倫太郎、wikipediaパブリックドメインより

地図;マピオン