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今も美の世界ではギリシャ美が不動の基準だ。一体それはどのように生まれ、なぜそうなったのか。

特別展【古代ギリシャー時空を超えた旅ー】(神戸市立博物館)にちなんで

 

 

現在のギリシャ政府は財政破綻の危機に瀕し、債務の減免を求めざるを得ない誠にはかばかしくない経済状況ではある。しかしながら、美の世界においては、ギリシャは世界を制覇し、2500 年に及ぶ長い歴史の中で、文字通り人類の美意識のスタンダードであることを誇ってきた。いわば不動不滅の4番打者なのである。

 

ギリシャは今日の美の源流であり、ビザンチン美術もルネサンスも、そして近代絵画に至るまで、ずっとギリシャは美の基軸であり続けた。まあ、ギリシャを理解しないことには美術の話は始まらないのであるが、尊敬されて止まないギリシャ美の規範は、一体いつどのようにして生まれたのか?

まさか生まれた時からこうでした、という訳ではあるまい。美の様式や規範の成立には、それなりのプロセスや発展段階が生命体のようにあって、それを経て今日につながったになった違いない。

                            

また、ギリシャ美の絶対的な規範が生まれたとして、どうしてそれが世界に広がり皆が受け入れ、今日まで高い評価を与えて来たのか。その理由は何だったのか。などと、ギリシャについては色んなことを考えさせられる。

                            

いま神戸市立博物館で開催中の特別展【古代ギリシャー時空を超えた旅ー】は、そんなわけで僕にとって格好の考察の現場である。この展覧会、去年夏には上野の東京国立博物館で開催されたので、そちらで既にご覧になった方もあるかと。じつは僕もわざわざ見に出かけた一人であるが。

いずれにしても、ギリシャ美の歴史を考古学にまでさかのぼって解き明そうという野心的かつ周到な美術展となっている。物量的にもかなりなモノだろう。

                            

さて神戸の元町に近い市立博物館。石造りの洋館に入って、最初に観覧者が目にするのは

この《アルテミス像》だ。紀元前100年頃、とあるから、美術史的にはギリシャ美が最も成熟

したヘレニズム期の作品と言うことになる。大理石で、高さは140センチの彫刻――。

 

f:id:iwasarintaro:20170118193311j:plain《アルテミス像》前100年ごろ アテネ国立考古学博物館©The Hellenic Ministry of Culture And Sports-Archaeological Receipts Fund

アルテミスと言えば、ギリシャ神話での狩りと月の女神だが、この作品は髪型も姿態も処女的

なまでに初々しい。完全な3D感覚も含め、今の時代の者が見て何ら違和感を感じさせない。

僕には薬師寺の日光月光菩薩を思わせる衣文の格調と流麗。また脚を見れば動態を秘め

たストップモーションの凝縮感も見どころ。まだ7頭身以下だし、腰のひねりなども、同じヘ

レニズムの時代の、あまりに有名なルーブル《ミロのヴィーナス》や《サモトラケの二ケ》などの﨟(ろう)たけた表現には至っていないけれど。ギリシャ美が「コントラポスト」と言われる体の肉感的なひねりを持って、左右の足の体重を掛け違える手法を発明するまでもう一歩のところまで来ているではないか!まだ謹直だったころのギリシャの美の規範が、官能的なまでの成熟美に至るちょうど間にある作品。実に珍重すべき出展品と思える。さて回はこれよりも古い起源の、ミロのヴィーナスなどを生むまだまだ以前の、古代ギリシャの彫刻をさかのぼってご紹介する(つづく)。