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ギリシャ美って結局、ミロのヴィーナスのことでしょ、と言うのは間違いではないが、源流はこれ?

 

■特別展【古代ギリシャー時空を超えた旅ー】(神戸市立博物館) その② ■

 

我々はいまだにギリシャの美意識に支配されている。たとえば、8頭身美人。こんなプロポーショ

ンの規範もギリシャ人が作ったものだ。おかげで東洋の我々はいささか迷惑しているのだけれど。

でも誰も例えば天平時代の中国型のぽっちゃり美人が世界に通ずる美のスタンダードだとは、言

ってくれない。それどころか、世界の大勢は、やや男性ホルモンが多いマニッシュで筋肉質な女

性像になびいているし、ハリウッドが生み出すスター像だって、そうだ。

そのせいか、《ミロのヴィーナス》や《サモトラケの二ケ》などギリシャ発の彫像が、美の女王として

ずっと玉座に君臨してきたのではある。彼女たちが作られたのは何と紀元前2世紀、3世紀。ヘレ

ニズムと言うギリシャの美意識が到達した、最後でかつ最も成熟した美意識の時代の産物だ。

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《スぺドス型女性像》前2800年~2300年 キュクラ

デス博物館蔵©Nicholas and Dolly Goulandris Foundation-Museum of Cycladic Art, Athens, Greece

 

ところで一体ミロのヴィーナスが生まれる以前、その遥か昔はギリシャ人はどんな美意識を持っ

てていたのか。その答えは、写真の《スペドスの女性像》を見るとわかる。画像を見て、あっけに

とられた人もいたのではないか。と言うのは、今から言うともう5千年近く前のものなのに、何だ

かモダンではないか!間違うとジャコメッティやアルプなどの現代彫刻と思ってしまうかもねえ。

ところがよく見て頂くと股間には、明確に女陰が刻まれている。それで我々も、ああそうかこれは

世界に広く存在する古代の地母神崇拝の偶像か、と理解する。地母神崇拝とは、女性の子供を

産む力と大地の生産力を重ね合わせ、自然の生命力を讃える信仰である。この彫像は、高さが

約74センチ、キュクラデス群島と言うギリシャエーゲ海の南西部、クレタ島の北側に点在する

島で発見された1点。

さて、僕が惹かれるのは、《スペドスの女性像》がオリエントなど他の地域に出土する地母

神礼賛の素朴でプリミティブな土偶的なデザインとは、明らかにかけ離れた造形への意思を持っ

ているように見受けられる点だ。モダンデザインを超えて、ポストモダンともいうべき簡潔な省略や

モデリング志向を感じる。何かイデアと言うものを表現しようという意思を孕んでいるように僕には

思えるのだ。

この造形性が、《ミロのヴィーナス》につながった、などとの暴論は控えておこう。たとえ《ミロのヴィ

ーナス》が発見されたメロス(ミロ)島が、この像と同じキュクラデス群島の島であるとしても。両者

には2500年の時間の隔たりがあるし、空間把握は平板で3Dの表現にも当然まだ至っていない。

人種もたぶん、変遷して入れ替わったとみる方が普通だろう。それにもかかわらず、《ミロのヴィー

ナス》にちょっといやらしいくらい見て取れる、架空の理想像を求めてやまないモデリング欲求が、

もうすでに潜んでいると思わないだろうか。もしそうなら両者は時を超え人種を超え、文化のDNA

として連綿と流れ続け、呼び交わしあっていると言うことになる。う~む、どうだろう、妄想かな。

 

■展覧会の会期は、2017年4月2日(日)まで、神戸市立博物館にて。

                      

美術評論家 美術ソムリエ 岩佐倫太郎