読者の皆さま
京都大学での美術講演会のごあんないと、メールによる講演内容の事前講座です。
左はもうご存知でしょう。ゴッホがパリに出てから描いた《タンギー爺さん》。爺さんと
は変な呼び方ですが、親しみを込めて「タンギーの親父さん」とでも訳すべきところ
でしょう。日本語でも、親しい年配者を「親父さん」などと飲み屋等では呼ぶことは多
いですね。フランス語でも、原題はLE PERE TANGUYとなっています。貧しいゴッホ
に画材や絵の具を無償で与えて支援したゴッホの恩人です。
それはそうとして、ここで皆さまに見て頂きたいのは、ゴッホの色遣いです。
つい2年前までオランダで暗い暗い絵を描いていた同一人物とは信じられない
弾け方ですね。ゴッホはパリに出て、折りから流行していた日本の浮世絵に出
会って、それまで自分が頑なに守っていたものがブチっと切れるのを感じたの
ではないか。むしろ密かに潜在的に自分が夢見ていた世界が、浮世絵の世界に
既に実現されているのを知って、悔しくもあり、憧れもし、自分の進むべき方
向を翻然と悟って、自己変革を遂げたんだと思います。結果《タンギー爺さん》
においても、まるで江戸末期の錦絵のように、あざといとまで言えそうな色彩
の狼藉、豪奢な氾濫をほしいままにし、遠近法は見事に打ち捨てられています。
ゴッホは後世、カラリスト(色彩家)としても高く評されますが、その出発点は浮
世絵に有ったことは疑いようがないでしょう。ワッペンのようにちりばめた浮世絵への
礼賛が、何よりそのことを雄弁に語っています。僕は、日本の浮世絵があったればこ
そ天才ゴッホは生まれた、と今回の講演でも主張したい訳ですが、それは何も
我田引水な強弁でないことは、もう皆さまからもご同意いただけると信じます。
さてもう一方、右はマティスの《開いた窓、コリウール》(1905)です。これ
また色彩の滴るような風景画。マティスは「色彩の魔術師」と呼ばれましたが、
確かにここで用いられている色とその交響は、何とも楽園的で官能的です。絵
に正確なデッサンや遠近法がなくても十分に絵は成り立ち、むしろ色が意味の
説明役から放免されたときの方が、ぐんと魅力的な絵が成立することをマティ
スは証明しています。
もう読者諸賢はお気づきでしょうが、マティスの色彩も実は浮世絵の多大な影
響下に生まれたものです。彼は浮世絵の色彩や平面性(=版画性)と言う美質を、
間接的にゴッホ経由で受け取っているのです。二人は、時代的には数十年ばか
りマティスの方が後です。意外に思われるかもしれませんが、二人は絵の上で
は親子のようにしっかりと結びついていて、おなじDNAを受け継いで持って
いるとみなすこともできるのです。
ゴッホがパリで浮世絵から学んだ色や平面性は、どのようにしてマティスに伝
わって行ったのか?ちょっと長くなるので次回、マティスにゴッホの浮世絵の
DNAを中継した二人の画家の話を(つづく)。
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■美術対談講演会@京都大学時計台
浮世絵で始まる西洋美術
7月15日(日)14時から16時 京都大学時計台・国際交流ホール 100名
■17時からは時計台下にあるフレンチ・レストラン「ラ・トゥール」で
立食パーティを開きます(任意参加で、定員は60名までです)。
■会費 講演会のみ4千円、パーティとも1万円(含消費税)領収書発行
■お申込みはこのメールにご返信ください。またはiwasarintaro@gmail.com
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※森先生とのシリーズでは、学生招待枠を設けています。学生の方は無料です。
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IPS細胞研究」に今年も寄付したします。
美術評論家/美術ソムリエ 岩佐倫太郎