■祇園祭の山鉾に、ギリシャ神話を見た!(その1)

1か月にわたる祇園祭が続いている京都だが、なんといってもハイライトは前祭(さきまつり)の山鉾巡行だろう。717日(火)、恒例の「祇園祭連歌会」への出席を兼ねて山鉾見物に出かけた。今年の目的は、ギリシャ神話の《ヘクトールとアンドロマケ》のタピストリーを探して実見する事。今から3千年も前のホメロスの叙事詩の有名な場面が中世ベルギーでつづれ織りにされ、オランダ商館長から献上品として徳川家に渡り、その後、幾つかに裁断されて徳川親藩の大名家などに下賜され、それが流れ出て、に京の祭りのを飾ることになろうとは!(祇園祭は移動美術館でもある)。

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◆函谷鉾(かんこぼこ)◆ 右の綴れ織は、旧約聖書の《イサクの結婚》。美しい娘「リベカ」は従僕に水を与え、下の部分では従僕がリベカに婚約の印の腕輪を贈っている。時間の経過を一枚に表現する「異時同図法」。日本の絵巻物も得意とする技だ。

さて、京都には昼前に着いたので、地下鉄で直接御池通りへ。地上に出ると、目の前には巨大な函谷鉾(かんこぼこ)。確かに西洋の宗教画風の掛物が下がっているのだが、これは目的のギリシャ神話ではない!旧約聖書の《イサクの結婚》だ。それにしても旧約聖書までが祇園祭タピストリーとなって、鉾を飾っているのには驚かざるを得ない。洋の東西の違い3千年の時間軸も軽々と超えて、旧約の創世記のエピソードが、この京都の祭りに出現するとは!

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ちょっとだけこの旧約聖書の物語を解説するとアブラハムの息子=イサクの嫁の候補者を探して、アブラハムの従僕が旅をしていたとき、とある井戸で渇きを覚えて水汲みに来た娘さんに水を所望する。するとその美しい土地の娘は、従僕に井戸から水を汲んで与えただけでなく、連れている駱駝にも水を親切にも飲ませたのだ。その優しい心根と美しい容姿に、この人こそ神の予言の人従僕は娘の家族を説いて、カナンの地に連れ帰る、というストーリー。そんな遠い異国の物語を何のわだかまりも無くディスプレイする祇園祭は、奥深いと言うべきか、いっそ奇怪と言うべきか・・。いったい祇園祭って何なんだ、それでなくても暑いのに、アタマがクラクラさせられるではないか(つづく)。

 

美術評論家/美術ソムリエ 岩佐倫太郎

 

715日(日)京都大学百周年記念時計台の国際ホールで、森耕治先生との2回目の美術講演会を行い、好評裡に終えることができました。今年はジャポニスムゴッホからマティスまで掘り下げ、西洋美術史における浮世絵の影響を俯瞰的に検証しました。またその後、同じ時計台のフレンチ・レストラン「ラ・トゥ―ル」の料理で懇談会を開き、多くの名士、名流ご婦人にもご参加いただき、美術の話に花が咲きました。暑い中、ご参加のみなさま、本当にありがとうございました。改めてお礼を申しあげます。なお収益の一部を今年も、山中伸弥先生のiPS研究に寄付させて頂きます。