【ワーグナー/ニーベルングの指環@びわ湖ホール その③】

ヨーロッパに溢れる、英雄が龍を剣で退治し美姫と結ばれる伝説。話の源はギリシャ神話のペルセウス(ゼウスの子)がアンドロメダ姫を救っただろうと思われる

ワーグナー/ニーベルングの指環びわ湖ホール その③】

 

ルネサンスを「文芸復興」と言ってしまうと、判ったような気になって思考が止まる。実際は何の答えも得ていないのだが。同様にワーグナーの「指環」が「北欧伝説」にもとづく、などと教えられると、そうか!と思って、それ以上考えなくなる。少し前まで、僕もそうでした。

まあ実際には、「ニーベルンゲンの歌」という中世ドイツの英雄伝説、竜殺しのジークフリートの物語に、ワーグナーの台本はほぼ依拠しているのではありますが。

 

ところが今回舞台を見てみて、「指環」の水源はどうもそれだけではないなと思い始めた。とくに今回の第3話「ジークフリート」には、グリム童話の童心のファンタジーの要素も色濃く取り入れられている。結果、子供向けオペラかなと観劇中、自分で錯覚を起こすほどだったことは、最初に書いた通り。

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それ以外に、神の国や巨人などの世界観の設定は、ギリシャ神話の構造をしっかり受け継いでいる事も誰しも容易に見て取れるだろう。また、竜(大蛇)を殺して姫を救う、あるいは嫁にする話はヨーロッパ中に遍満しているが、源流はやはりギリシャ神話の「ペルセウス」が、「竜(メドゥーサ)の生贄になったアンドロメダ姫を救う」物語ではないかと想像する。キリスト教聖人の聖ジョージ(今もイングランド守護聖人)の逸話も、竜を殺して生贄の姫を救い、人々を異教からキリスト教に転向させるものだが、これも元はギリシャ神話からの派生だろう。ふたつの図像を見て頂こう。左の空を舞うのがペルセウスヴェネツィアルネサンスの巨匠、ヴェロネーゼの《アンドロメダを救うペルセウス》。右はマティスやルオーの師匠、モローの《聖ゲオルギオス(=ジョージ)と竜》。

 

かくして物語は、漂流し、行く先々で婚姻し、子をなし、その子もまた辺境に旅立ち、伏流して19世紀後半のドイツにオペラとして登場する。それが伝説物語の持つ運命であり比類なき生命力なんだろう(つづく)。

 

岩佐倫太郎 美術評論家

 

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