大阪中之島美術館の建築内部が2021年7月1日、公開された

■大阪中之島美術館は2022年2月2日が開館予定。一足早く建築の内覧会に出かけて来ました■ 

 

開館が待たれる「大阪中之島美術館」の建築が上がったとのことで、メディア向けの7月1日の内覧会に出てきました。もちろん絵もまだ掛かっていなくて、家具やショップの建て付けもこれからと言う、スケルトン状態。出来上がっているのは黒々としたマッシブな建物の外壁と床・壁・天井、あとは設備関係です。

それだけにかえって、建築の構造をむき出しで見ることができてなかなか面白い体験でした。「街と溶け合う」ことがコンセプトと思われ、どこを正面玄関とも定めず、四カ所に入り口があり、1階はショップや飲食など交流機能が予定され、川に挟まれ行き止まり感のある中之島に、回遊機能を高めようとする狙いなんでしょう。

 

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堂島川を背にして南を向いて撮影。黒いキュービックな箱が誕生していた。国立国際はこの後。

 展示室は主に4階と5階で、階段やエスカレーターで登るのですが、動線が建物内の吹き抜け空間にセットされているので非常に了解性が高くて、観覧者はストレスなく、展示ギャラリーへ行ってまた元へ戻るというストーリーができているように思いました。ちなみに5階の天井高は現代美術にも対応する6メートル。高いです!また内部空間からはどこからも、大阪・中之島のビル群や川の流れを普段知らない角度から見ることができ、たいへん好ましい開かれた建築になっていて、今自分がどんな場所にいるのか判る安心感もあります。こういうのをセンス・オブ・プレイスと言いますが、大事なのに意外や有名な建築家の先生でも忘れがちな点ではあります。

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内部から北の方面を望む。上の写真で一か所光っていたのが、この窓でした。大きい!

建築家が、自意識過剰なモニュメントの意匠を作っていたのはもう過去のことで、日本でも金沢21世紀美術館を設計したSANAAの妹島和世西沢立衛の作例や、去年リノベーションして話題を呼んだ青木淳京都市京セラ美術館のように、自由に通行できて街とシームレスにつながる建築の在り方が今の流れです。イオ・ミン・ペイによるルーブル美術館の大改造(1989年)もそうでした。建築家の役割は、奇異な彫刻的デザインや外装を競うのでなく、社会問題を解決する、言わばソーシャル・プランナーやマーケッターのような役割に再定義されていくのでしょう。

さて、コンペを経て選ばれた今回の建築設計は、まだ若い遠藤克彦とそのチームですが、美術作品が主役であることをよくわきまえ、一歩下がって「器」を作っています。料理を盛り立てるのに、お皿が自己主張しすぎてはいけないと、老成とイノセンスが同居した若い世代の作法に、僕も新しい刺激をもらいました。

 

ところで、大阪中之島美術館のコレクションの特徴は、一つはモディリアーニユトリロら20世紀の初めのエコール・ド・パリの作家の作品が充実していることです。また同時代にパリで画業に励み、フランスに客死した大阪出身(中津)の佐伯祐三のコレクションも魅力的です。他にも戦後の抽象絵画で世界をリードした「具体美術」の吉原治良や白髪一雄、元永定正らの作品群も、オープンすれば逐次公開されていくと思います。

こんご中之島全体がドイツのベルリンの博物館島ムゼウムスインゼル)のようになって、回遊しながら古今東西の美術を体験できる、関西の文化の顔になることを願っています。

 

美術評論家/美術ソムリエ 岩佐倫太郎

 

※今夏から、「遠近法の来た道――ダ・ヴィンチから北斎へ」をシリーズで書き継ぐ予定。長くなるかもしれません。