(FBの2015年2月の記事を再録)Note; 生牡蠣を食らう(ちょっと長いです)

Note; 生牡蠣を食らう(ちょっと長いです)
 

この前の土曜の朝、いつもより遅めに起きてお茶を飲みながらTVを見るとも無く見ていると、おなじみの旅番組をやっている。松田聖子のもと旦那が司会して、食べタレだか旅タレだかがレポーターをしているヤツ。今回は長崎の平戸だった。さすが東シナ海に面する海の町、料理旅館でひらめなどの刺身やしゃぶしゃぶを食すと言う内容であるが、大皿にふんだんに盛られた魚のそのうまそうなこと。カメラ映像の光の回り方がいいのか、料理人の包丁が切れるのか、両方なんだろう、タレントさんがお約束のように嬌声を上げなくても、十分に美味なる事は分かって、思わず垂涎。

 

そこへ不意にピンポーンが鳴った。クール宅急便のお届けです、と言うのである。はて?身に覚えは無いがと出てみると、なんと釣り好きの友人が赤穂から生牡蠣を送ってくれたのだった。それにしても何たる偶然。翌日、琵琶湖でヨット仲間たちと能登の牡蠣を食べるパーティに誘われていたのを旅行があるからと断ったが、牡蠣に大いに未練があったちょうどそのときだったから。さっそく白いトロ箱を開けると大量の殻つきの牡蠣。

 

喜んだのだが、同時にたじろいだ。よく考えてみると、殻つきの牡蠣など剥いたことがないぞ!それで早速youtubeを2,3本検索した。なるほど、軍手をして切れない包丁でゆっくり貝柱を切る、か。なんだか出来そうである。危険なこともなさそうだ。それでその日、太陽が傾くのを待って、料理にかかる。まず左手に軍手をする。妻のガーデニング用なので妙な花柄が入っているがまあ、委細はかまわないことに。敵は貝類なので。ついでyoutubeの指示通り、2枚貝の扁平な面を上に、深く窪んだほうを下にした。ヨシ!さらに指示がある。貝のちょうつがいの部分を左側に。そうか!こうしておいて、貝の右の隅、時計で言うと4時か5時のあたりの先端を料理バサミで切りなさいというのだ。これは素人が固く締まった2枚貝に包丁を入れるのに、安全で確実な手法だろう。パリのオイスターバーのエカイエ(牡蠣剥き職人)だったら、こんな冗長なマネは絶対しないだろうが、まあこれでいい。実際、ハサミで切ってみると、カラはバリバリと簡単に粉砕されて、ナイフを入れる口が出来た。それではと家で使い古したナマクラなテーブルナイフを家人に貰い、刃先を貝の中に差し込んでみる。貝柱は牡蠣の肉の上と下と両方についているというのも今回はじめて分かったのだが、まずはナイフを上側の貝殻の天井の辺りに差し込んで、コシコシとこそいで見る。すると、何か脱力したような感じがあって、上の貝殻が敢え無くパカッと外れてくれたのだ。いいぞ、とわが身を励まし、次は底にある貝柱に向かう。ところが何のことは無い、これもナイフで底をこそげるとあっけないくらい簡単に外れてしまったのだ。かくして、貝殻を皿にして生牡蠣が1丁出来上がり!見事盛り付けられたのだ。簡単じゃないか!こうなると調子に乗って我輩はもう1個、また1個と、バリバリ、コキコキを繰り返して、またたく間に1ダース以上の生牡蠣を盆に並べた。フランスならこれは、「海の幸の盛り合わせ(プラトードゥフリュイドゥメール)」などとして、結婚式のケーキのように何段にも重ねた銀色のトレーに海老やタルトーと呼ばれる蟹と一緒にサーブされるところだ。シュークルートやライ麦パンとともに。

 

それはともかく、さて、ここまで進むと後はワインのチョイスだ。実は昼間に家人と検討して、本来ならシャンパンかいっそのこと甲州ワインがいいと言うことになったが、シシリーのオーガニックな地ワインを食品蔵に見つけて、この骨太さを牡蠣にぶつけてみようと冷蔵庫に待機させてある。なまじシャブリなどで腰の薄っぺらいのを合わせたりすると、牡蠣によっては生臭くなってしまうからね。

 

とりあえず食べるべしと、牡蠣をそのまま指でつまみあげ、しょっぱい海水の味とともに口に落とし込む。レモンはかけない。まず鼻腔から海の香りがふわりと抜けていく。海の広がりと大きさを感じる。牡蠣を食するのは、何処か秘めやかな房事に似ている。嫋嫋としてエロティックで、目も口も無い得体の知れない海の怪獣の肉を弄び、押しつぶしてはミルクのような精を吐き出させ、次々と胃袋に送り込む。ついで口中の餐劇の証拠を消すかのように、今度はワインを含んでクビリと口を洗い流す。プルリン、クビリ、プルリン、クビリを繰り返しているうちに、あっという間に牡蠣は無くなった。急いでキッチンに回って、ワインを飲みつつ再びせっせと生牡蠣を剥く。ときどき剥き損ねた肉片をつまんで口に放り込んだりしながら。

 

またしても生牡蠣の饗宴。プルリン、つるりん、プルリン、つるりん、そしてクビリ、グビリ、グビリンコ。ああどうにも止まらない。

 

2ダース以上食べて漸く落ち着いたかな。今度はレンジでチンすることに。これは何の手間も要らないいたって簡単な調理法。蒸しても同様だろう。

酒を途中で純米酒に変えた。そうなるとポン酢にもねぎにも平気で、ホクホクした身を頂き、これも際限ないくらいいける。最後は牡蠣鍋で豆腐や白菜とともにコリッとした身を楽しませてもらって、雑炊で〆て我が家の宴は果てた。満足して、家人に最後に「コニャックを持て」と皇帝ナポレオンのように命令したのだが、「明日はまた鴨鍋で好き放題飲むんでしょ、ダ・メ・で・す」とニベも無く断られてしまったwww。