この5年くらい僕は、浮世絵が印象派を生んだと言う話を、京都大学やNHKカルチャーセンターなどで語ってきました。
それは決して自国文化への贔屓の引き倒しではなく、日本の優秀なビジネス・パースンやこれから美術を楽しみたい
シニアの方々に、東西の美術交流の歴史を正当に知ってもらいたいからです。日本では何でも西洋から取り入れて、
マネをして学んできた、という自虐的な文化史観がなぜか幅を利かせているので、もう少し自国の文化にも自尊の念
を持ったらどうですか、といった気持です。特にこれから美術を少しづつでも判って行こう、楽しもうと思っている方には、
ジャポニスムから入るのが最適と僕は思っています。ここを押さえておくと美術の教養の幅が分厚くなって、印象
派以降の美術の流れを、必然として体系だってさらっと理解できるようになるし、近代の日本美術を見る場合も、
逆に西洋美術から受けた影響の部分を把握できるようになり、スジが通ってきます。
広重《魚づくし――赤魚》(左右反転しています) フェリックス・ブラックモン《赤魚に雀図皿》1867年
ちょっと前置きが長くなってしまいました。フランスにおけるジャポニスムの始まりについては、面白いエピソードが
あります。19 世紀半ばのパリに、ブラックモンと言う名の版画家がいて、1856年のこと、仕事先で日本から送られ
てきた焼き物の包装や緩衝材に使われた紙を発見する。紙のしわを伸ばしてみると、そこにはまだ見たこともない、
いとも珍しい異国的な絵模様が刷られていたのです。驚嘆した彼は直ちに、マネやドガなど絵の仲間に知らせます。
若い才能ある画家たちが集まるカフェでは、たちまちに異国の絵に魅了され画法の違いに話題が沸騰したでしょう。
ちょうど当時のフランスは、産業革命が進み、万国博を開催し、海外の物産や美術にそれまでになく関心が高まっ
ていた時期でした。ブラックモンが手にした絵は、おそらく北斎漫画の刷り損じでしたが、ブラックモン自身もみずか
らディナーセット皿などのデザインに応用して、ジャポニスムのシリーズは長らく人気を博しました。その作例が上
の画像です。元の浮世絵を調べてみたんですが、これはどうやら広重の「魚づくし」の引用かと思われます(続く)。
◆講演会のお問合せ、申し込みは iwasarintaro@gmail.comまたは このメールにそのままご返信ください。
日時;11月8日(木)17時から19時 会場;東京駅前の新丸ビル10階「京都大学・東京オフィス」会費4,000円
すでに定員の3分の2のお申し込みを頂いています。参加ご希望の方は早めにお申し込み下さい。
美術評論家/美術ソムリエ 岩佐倫太郎
◆京都大学時計台で7月に開催した講演会の参加費の一部を、去年同様、山中伸弥先生のips研究に寄付しました。臨床実験に
移行して資金がいくらでも必要な段階だとおもうので、ささやかながら応援させて頂いた次第。京大はから先日、感謝状を頂きました。