■□■□■ 【ウフィッツィ美術館で、ルネサンスの名宝を見て歩く②】 ■□■□■
ユダヤの王たる者の誕生を知った東方の三博士は、はるばる星に導かれ、贈り物を携えヨセフ一家を訪れ、幼子イエスを礼拝します。新約聖書の「マタイによる福音書」伝えるところの物語。この主題は、ボッティチェリ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ベラスケスなど、美の巨匠も好んで取り上げました。そうした数ある「三博士」の中でも、僕が好きだったのは、ウフィッツィのジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ(1360年/1370年頃 - 1427年)の作品。久々の対面が叶いました。
東方三賢王の礼拝1423年 ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ 板にテンペラ 幅3メートル ウフィッツィ美術館
画面に溢れんばかりの、荘厳極まりない豪奢とエキゾティズムの饗宴。金色と組み合わされた赤色の官能的かつ不穏な効果。聖画なのに戦争画にも見えるのは、十字軍を思い起こさせるからでしょうか。日本の「平治物語絵巻」などにも共通するスリリングな絢爛さです。むっちりとした奥行き感や輪郭線の手際のいい処理も満足のいく美しさです。本来ならミケランジェロの絵のように、リアルで筋肉質なものに向かうはずのルネサンスが、ここではビザンチンから別な進化を遂げて、宮廷的な装飾性に富んだ様式を、ガラパゴス的に完成させているのも興味深い点です。専門的には国際ゴシック様式と言っています。
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さて、この絵を発注したのは、フィレンツェでメディチ家と並ぶ名門貴族、ストロッツィ家。教会内の自家専用の祭壇のために描かせたものです。もちろんメディチ家も負けてはおらず、花の大聖堂のそばに自分たちの宮殿を建て、今もそこで見れますが2階の内壁一面を「東方三博士の行列」で飾ります。作者はフラ・アンジェリコの弟子、ベノッツォ・ゴッツォリ( 1421年頃 - 1497年)。
東方の三博士の行列 1459年 ベノッツォ・ゴッツォリ フレスコ画 メディチ・リッカルディ宮
この絵で注目すべきは、メディチ家の3世代が、東方の三博士に扮して登場していることです。ちょうど中央右、白馬に王子然とまたがる少年は、のち「豪華王」と呼ばれるロレンツォ。社交家で芸術に造詣が深く、ミケランジェロ、ボッティチェリ、レオナルドらの、ルネサンス最大のパトロンとなります。
そして画面左、赤帽で白馬に乗る横顔の男は少年の父、ピエロ。この絵の発注者です。手前の茶色いロバで進む老人がコジモ。ピエロの父でメディチ家繁栄の礎を築いた人物。なぜロバかというと、イエスの最後、歓呼で迎えられた「エルサレムへの入城」の乗り物も、やはりロバだったことをトレースしていると僕は思います。功績ある家父長に、絵の中で最大級の待遇をしている訳です。
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それにしても一族を堂々と聖書の物語に滑り込ませて、権力と成功を誇示するとは!なかなか図々しい振る舞いですが、聖と俗が平然と混淆するのも、当時の現世主義的なルネサンスの空気なんでしょうね。「奢りなくして傑作なし」、というのも芸術の真実かも知れません。