イタリアの宝石は絵画だけじゃない。このトスカナ料理とワインの素晴らしさも至福なり。

■□■□■   閑話休題───イタリアのワインと料理に夜は更けて】  ■□■□■   

 

ローマから列車でフィレンツェに入ったその日のことです。街がこじんまりして見どころも多い

ので、思わず距離を歩いてしまいました。おまけに石畳のデコボコ具合も半端じゃない。さす

がに夕方の鐘があちこちの寺院から鳴るころにくたびれてホテルに帰ると、夫婦どちらから

ともなく食事は至近なところでしようと言いだし、シャワーだけ浴びると、ホテルから50メート

ルと離れていないサンタ・マリア・ノヴェッラ教会のそばにあるレストランに出かけたのでした。

 

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ズッキーニのカルパッチョ。サラダですね。

 

実はこの店、昼間に前を通りかかったとき、黒板のような手書きのメニュー・ボードに本日の

料理として珍しくラビオリや牛の胃袋(トリッパ)の煮込みがあるのを、目ざとく見つけておい

たのです。テラス席に案内されてとりあえずビール代わりに発泡ワインを頼み、最初の皿は

ズッキーニのカルパッチョにしました。ピーラーでむいてパルミジャーノを合わせ、バルサミコ

とヨーグルト入り(これがミソ)マヨネーズ・ソースをかけるだけ。あっけにとられるほど

シンプルですが、初夏らしい一品。

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2皿目は家人はアーティチョークのラビオリを、僕はトリッパを選びました。クネクネした牛の

胃袋のゼラチン質の噛みごたえが好きなんです。数日後、街の大きな市場で牛の胃だけを

扱う専門店(=トリッパリー)を見つけた時は、さすがにトスカナの台所の奥行を感じました。

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トリッパの煮込み(モツ料理です)

 

さてそれで次のワインの選択です。ローマではずっとブルネッロ・ディ・モンタルチーノという

トスカナ産の高級赤ワインを「日本よりはるかに安い!」と言い訳しながら飲んできたんですが、この店はカジュアルなので、初めてキャンティ・クラシコをとってみました。料理を待ちながらそれをクビリクビリとやっていると、やおらトリッパが登場。これ見よがしのデザインや盛り付

けはないが、素朴で温かみのあるトスカナの郷土料理です。

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アーティチョークのラビオリとは珍しい

 

僕は胃袋をかみしめて、この味うまいなあ!と飽きのこないおいしさにキャンティのクビリを重

ねていると突然わが舌が、「あれ?この味ってモンタルチーノと同じじゃん!」と告げてきた。ワ

イン通の読者なら今さら、と笑うかもしれないが、よくよく思い出せば両者のもとは同じ地ブドウ種のサンジョベーゼ。でもまるで神の啓示のように、大発見は天から降ってきたのでした(

笑)。

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ところでお店はイタリアらしく陽気な活気に満ちて、カメリエーレ(ギャルソン)も人なつっこい。

パスタをシェアしたあと、「デザートは?」と聞かれて、まだワインが残っているのですかさず

「チーズを!」と頼むと喜んで、「シー!」と返事して素早く奥の厨房に消え、次に現れたときに

はニコニコ顔で何とパルミジャーノのてんこ盛りの皿を持って来た。吾輩も喜ぶまいことか!

何しろ日本では遠慮しいしい食べてるチーズです。肌色の質感も鼻孔に昇る発酵臭も麗しく、

あとを引く酸味も成熟して官能的なまでの味わい。硬すぎも柔らかすぎもしないのをネズミのようにガリリカリリとやっては、クビリンコと赤ワインのキャンティを流し込み、ガリリと噛んではまたクピリンコとやり、あきれる女房を横目にグラスでワインを追加してまたガリクビ、ガリクビ、ああもうどうにも止まらない。ワインとチーズの法悦境にしばし我を忘れて、フィレンツェの夜は更けていくのでありました。

   

 

【後記】ワインとチーズの話なので、かねて尊敬する醸造・発酵学者の小泉武夫先生の日経コラム

での文体のリズムを一部形態模写してみました(笑)。さあ、どこまで本物に迫れているでしょうか?