(2016年9月1日 梅田グランフロントのナレッジサロンで会員に講演4-①)
皆さんこんばんは。美術評論家の岩佐倫太郎です。今日は遅い時間帯にお集まりいただき誠にありがとうございます。
僕はこのナレッジサロンで美術のことをしゃべらせていただくのは3回目ですけど、先ほども司会の方からご紹介が
あったように、今回は僕がかねて尊敬するベルギー在住の人気美術史家の森耕治先生をお招きして、リレー形式で
話を進めさせていただきます。
ゴッホによる広重の模写。謎の漢字で額縁を描いています。こちらはホンモノ広重、雨雲の黒いぼかしもカッコイイ。
テーマは「ジャポニスム」です。なぜジャポニスムか?と言いますと、たぶん今日お集りの皆さんは現役かもうご卒業さ
れたかは別に、もともとビジネスの世界でいい仕事をされていて、その上に文化的な余裕で、今日こうして、絵の話も
聞いてみようかと言う方が多いのではないかと思います。年に何度かは美術展に行くよ!と言う方がほとんどじゃない
でしょうか。
そういう方々が、今後の人生の楽しみとして、あるいはビジネスでのご自身の創造的なヒントを得るために、
絵の見方を学んでいかれたいのなら、一体どんなジャンルから入るのがいいのか?琳派でもバロックでもよろしいの
ですが、今日の講演会のご依頼をいただいたときに、僕と森さんが話し合って出したテーマは、文句なく一致しまして、
それがジャポニスムだったんです。ちなみにジャポニズム、と濁ってもいいんですけど、それは英語式の発音でして、
フランス語の場合はジャポニスム、と濁りません。まあ、皆さんもフランス式の発音に慣れておきましょうか。
それで今日はジャポニスムで話を進めてまいります。
ジャポニスムを何にもまして真っ先に選んで取り上げた理由は、日本の浮世絵とヨーロッパの印象派をブリッジする話
だからでして、ここを押さえておくと、西洋美術にも日本の美術にも両方睨みが効いて非常に視界を一挙に広く持つこと
ができます。
皆さんも海外の人と仕事をしたりするときに、やっぱり夜の食事も一緒にと言うことがあるでしょう?そんな時、いつまで
も金儲けの話をしてたんではバカにされますね。やはりそういうときは少なくとも、絵画の話や音楽の話の一つや二つ、
しゃべって、自らの文化的なアイデンティティと言うものを示さなければならない。それが実際の名刺みたいなもんです。
日本人なら、美術の基礎教養と言うか、基本の「キ」としては、ジャポニスムをまずマスターして頂きたい、そう思うわけ
です。すでに詳しい方もおられるでしょうけど・・。
それで今日の趣向としましては、浮世絵や春画、日本の画商の動向など主に日本側の話を僕の方から。そしてヨーロ
ッパ特にフランスではどう受け止められたか、その影響は西洋美術史にどんな多大な影響を与えたか、という向こう側
の事情を、現地にお住いの森さんから話していただき、リレーで交代でそうですね、今から約7、80分でひとまとまりの
内容をお伝えしたいと思います。非常にコンパクトに、しかも重要なポイントは漏らすことなく、大胆な仮説もご披露して
進めて参ります。
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はい!それではいよいよジャポニスムの話です。お待たせしました!ジャポニスムは19世紀後半のヨーロッパ、特に
パリやロンドンで発生した美術史上の大事件です。日本での出来事ではないので、誤解しないようにお願いします。
森さんもおっしゃってることですが、ジャポニスムを単に日本趣味と短絡して覚えてしまう人もいますけど、それは大間
違い。事件のきっかけはもちろん日本なんですけどね。もっと深いんです。
みなさんもよく歴史で習ったと思うんですが、ペリーが黒船でやってきて、江戸幕府が開国を迫られ、19世紀の半ば、
正確には1858年ですけど、フランス、アメリカなど5か国と修好通商条約を結んで、ここで200年以上続いた鎖国が
解かれるわけです。200年以上戦争もなく平和でしたが、海外文化は入らず、勃興した庶民階級が空前の経済力を
蓄えて、まあ、独自のガラパゴスと言うか夢のような桃源郷的な文化を作り上げていた。浮世絵をはじめとする美術工
芸などの成熟度は、もうライフスタイルぐるみで、西洋よりはるかに先を行ってた。産業革命こそまだ起きていません
が、思想の上でも西洋に勝っていたんです。世界の文化・美術史の中での奇跡です。
こんなふうに、僕が日本は西洋よりずっと先を行ってたと言うと、今日の皆さんの中にも、「えっ!そんな事ってあるの」
と驚かれる人が多いかもしれません。日本は何でも欧米の後塵を拝して、追いつけ追い越せでやってきたと多くの人が
思っている。確かに一面では間違いではないですが、このジャポニスムのように西洋の側が猛烈に憧れマネし、取り込
もうと必死になった歴史もあるんです。どうかインテリジェントな皆さん、文化の面でも自虐史観は今直ちに解いて頂い
て(笑)、日本が西洋美術とその思想に大きな影響を与えた史実があったことを知って頂きたいと思います(つづく)。
ニューズレター発行 岩佐倫太郎 美術評論家
◆最後まで読んで頂いてありがとうございました。長かったですかね。ちょっと心配です。下はベルギー王立美術館の森耕治さんと講演後。