【フェニーチェ堺での音響測定会③】

満席から4割ほどの人が退場すると、こんなにも違って聞こえるものなのか。今後ホールでは、実験をもとにさらに吸音材を出し入れしたり、反射板を調整したりして最終仕上げをするらしい。楽しみだ。

 

【フェニーチェ堺での音響測定会

 

下の画像は、当日、客が入り始めてすぐのときの内部。ひも状にぶら下がっているのは舞台の音を拾う実験用マイク(これが何ヶ所かにある)。舞台の三脚に乗ったのは、球形のスピーカー。これがのちに奇矯なモニタリング音を出す。 

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さて、測定会はいよいよ最後のプログラムに進んだ。短時間コースに応募した800人が退場。1,200人の長時間コースの人だけが残る。いったいどういう席の人が退席するようにしたのか。確かに最前列左右の端やバルコニー席に空席が目立つが。これを後で市の担当の方に聞いてみたら、「満席にならずに切符が売れ残った時に、空席になりがちな席を想定して、その席を短時間コースの方の席とした」とのことでした。なかなかの好判断。最高状態にスペックを合わせずに、日常的によく出来する事態に備えようとの考えですかね。 


オーケストラは地元の堺市に本拠を置く大阪交響楽団。この日は実験とあってメンバーは正装でなくラフな普段着姿でステージに並んだのも新鮮。そこに外人の指揮者(僕は知らない名前)が登場し、ドヴォルザークの「新世界より」の第4楽章が再度始まる。


この交響曲9番はドヴォルザークが、アメリカ・ニューヨークの音楽院に院長として招かれて滞在していたときに作曲したことで知られる。それゆえか全体にスラブ的な郷愁に満ちたメロディラインがちりばめられ実に美しい。テンプレート的な建築的作曲法に頼らず、ここまでオリジナルでメロディを書ける作曲家は稀有だろう。第4楽章が始まるとほどなく、ホルンやトランペットが咆哮してティンパニの連打とともに、おなじみの有名な第1主題が繰り返される。それまで故郷恋しさにすすり泣いていた筈の乙女が一変して、その時はまるで神話の巨人か雷神となってチェコの大地を大股に渡って行くようだ。ヒロイックで情熱的で逞しい。この振幅こそがドヴォルザークなのだ。4つの楽章を通じて、シンバルがたった1回きり、第4楽章で小さく鳴らされるのも有名だが、CDなら聞き落とすかもしれないところをさすがにこの日はナマなので、よく見えたことも付け加えておかなければならない。

さて、全体に人数が減って聞こえ方はどう違ったか。僕はセンターラインの中央よりやや後方だったが、先ず音圧(ボリューム)が違った。あとの方が断然大きいのである。人間と言う吸音体が減ったので当然だろう。また楽器ひとつひとつの音が、より分離されて鮮明に聞こえる気もする。これ以上、分離するとバラバラと言う寸前までに達していたかもしれない。恐らく前方の人は音にまとまりを欠いたと感じるし、2階の人は存外いい音を楽しめたかもしれない。僕の席では全体に音はきれいな粒立ちをしてクリア。ここのホールの音の設計は、残響2.0 秒といった呪縛を越えて、よりクリエーティブにホールの多くの客にいい音を届けようと努力の方向を定めているようにも感じた。
 もしそうならば今後、演奏家や指揮者にデータを公開することで、他のホールにない音のマネージメントが可能な世界まで見えてくる。今後を楽しみにしたい(了)。

 

岩佐倫太郎 美術評論家

 

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