福田平八郎の後期展が、大阪中之島美術館で始まっています。福田平八郎は大正から昭和にかけて活躍した日本画の巨匠で、歴史的な名作の数々が追加で展示され見ごたえ十分です。僕も美術館で絵を見て心が震える経験を久しぶりにしました。作風は僕の理解では、江戸時代の尾形光琳ら琳派の伝統を、現代によみがえらせた画家と言うものでした。グラフィックで装飾的な点は生き写しかもしれません。
福田平八郎《花菖蒲》1934 京都国立近代美術館
しかし展覧会で作品を目の当たりにすると、また別の感想も浮かんできて、平八郎は写生を基礎に、植物や魚、水の動きなどを徹底して眺め、その観察眼の鋭さは印象派のモネかそれ以上です。おそらく意味を失う寸前まで眺めつくすことで、リアルを解体してデザイン的な造形に再創造していることが、見て取れます。日本画を西洋にも通じる近代絵画に高めた、大変な功績者と言わねばなりません。
注目すべき作品をいくつかご紹介したいと思いますが、今回は《花菖蒲》(京都国立近代美術館蔵)。多くの人はこの絵を見て、光琳の《燕子花図》(かきつばたず/根津美術館/国宝)を想起する人も多いことでしょう。また、画像は掲げませんが、広重の浮世絵、《江戸名所百景・堀切の花菖蒲》を思い出していただくことも可能です。
そんな伝統を踏まえた作品ではありますが、平八郎の作品の斬新なのは、上空から眺めたような絵の角度に加えて、絵の対角線に沿って水路を走らせていること。画面分割が幾何学的でシャープです。また色遣いも、緑と青の2色でほぼ終始させ、版画をまねて色数をわざと節約しています。もしここに金のバックが加わったら、まんま琳派ですね。ついでながら水路の黒っぽい板は、メトロポリタン美術館が持つ光琳のやはりカキツバタを描いた《八橋図屏風》の引用ではないかと僕はにらんでいます。八橋図に見る木の橋のモダンな折れ曲りを面影にして、先人へ敬意を表したのではないでしょうか。
その水路の水面ではよく見れば、空の青や雲の白が映り込んで、まるでモネの空を映す《睡蓮の池》のように夢幻的です。ここまで見て来ると、我々はもう一つの結論的な公式に達したかもしれません。福田平八郎=光琳+モネであると。
*「没後50年 福田平八郎」は大阪中之島美術館で、5月6日まで(終了)。