20世紀の美術界にはピカソと並ぶ天才とされるマティスがいます。色彩の魔術師と言われたマティス、色彩の遺伝子をゴッホから存分に受け継ぎ、そのゴッホは浮世絵に激しくインスパイアされて自分の色の世界を一変させました。この辺はもう皆さまよくご存知の史実でしょう。左下の肖像画などは、《ラ・ムスメ》と日本のタイトル!日本に憧れてやまないゴッホが、日本を舞台にしたピエール・ロティの小説から言葉を拾ったものです。アルルの娘を日本人に見たて、それゆえ髪は黒く肌は黄色い。浮世絵の美人画を真似た構図や平面性、着物柄のような色のちりばめ方も、背景との補色関係も見どころと言えるでしょう。
さてその絵からわずか20年足らず、マティスの色はゴッホに学びながらも、早くも長足の進化を遂げ、こんなにも開放された世界を生み出しました。単にカラフルなだけではない。右下の絵《帽子の女》は、色彩によってデッサンを破壊している点でも、フォービスム(野獣派)の記念碑的な作品と見做せます。
ピカソは立体化を試みて伝統的なデッサンを毀したが、マティスは色を通じて色の即興性だけで、絵画の力学が成り立つことを示したとも言えます。僕はこの作品に今なおゾクッとさせられるのですが、画家によるとこの時のモデルのマティス夫人は「チープな黒の服を着ていただけ」らしい。
ポスト印象派に続く1900年前後の美術史―—。この激動の時代の「色」を押さえておくだけでも、絵の見方がぐっと楽しくかつ深くなります。
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浮世絵で始まる西洋美術
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美術評論家/美術ソムリエ 岩佐倫太郎