明けましておめでとうございます。いつもニューズレターをお読み頂き、ありがとうございます

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郎世寧(イタリア人)


今年が読者の皆さまにおかれましても、健やかで実り多い一年となりますように、お祈りいたします。

 

さて、令和の年始を祝って掲げたこの白鷹の吉祥図。いきなりクイズにしてしまって恐縮なんですが、この絵の作者は、日本人でしょうか。それとも中国人でしょうか?おそらく多くの美術ファンは、ちょっと見で応挙や呉春などの円山・四条派と思われるかも知れない。ところが仔細に画像をよく見ると、日本人の表現とは考えにくい何か鋭利でかつ執拗な粘っこさがあるのが引っかかる。さあ、それではギガギガの太湖石や赤い霊芝を見て中国人なのかというと、実はさにあらず。この絵は、イタリア人の宣教師、郎世寧の作品なんです。郎世寧はミラノ生まれで、イタリア名はジュゼッペ・カスティリオーネ16世紀にマルティン・ルター宗教改革に対して、カトリック側からも「対抗宗教改革」なる運動が起きたあと、彼もまたイエズス会の宣教師としてアジアの布教に赴き、清王朝の歴代皇帝に重用され、宮廷画家となったのでした。

彼のこの絵からは、中国の前の時代の南宋や明の時代の様式化した画法を忠実にトレースしながら、でもどこかそれに収まり切れない写生のリアリズムが横溢しているし、遠近法も取り入れられている。吉祥図ながら新しい時代の科学的ともいうべき視線や具象を尊ぶ精神があるのを見て取れるでしょう。これぞまさしく、郎世寧が若い時代に母国イタリアで身に着けたルネサンス様式の描画法そのもの。郎世寧は17世紀末の生まれですから、もう十分にマニエリスムの精緻な技巧性もバロックの演劇性も身に着けてはいるし、ここにもそれは反映していますが、マニエリスムバロックも基本はルネサンスなんです。

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はるばる何万キロを渡って、イタリアのルネサンスがひとりの宣教師によって中国にもたらされ、今度は同じ清王朝の宮廷画家で同時代を生きた沈南蘋(じんなんびん)が、8代将軍吉宗の要請で長崎に渡来。円山応挙や平賀源内などに新時代の写生と遠近法の画法を伝え、そこから円山・四条派や秋田蘭画司馬江漢などの画風も生まれ、近代日本絵画の源流となる訳です。たしかに写実的な近代日本の絵画は応挙に始まったのはまちがいありませんが、もとを糺せば中国から、またその元を訪ねればイタリアから、遥かなユーラシアの大地や海を渡ってやって来たもの。このことは忘れる訳には行きません。また同時に美術文化の血の交流とは、いかに貪欲でかつダイナミックなものかと驚きも禁じ得ません。

という訳で、今年の課題として、そのような地球規模の美術の漂流や交流を、小説家的な想像も交えながら描いて、明らかにしていきたいと思っています。

お付き合いいただければ幸いです。よろしくお願い致します。

 

 

関西・大阪21世紀協会主催 岩佐倫太郎の美術講義シリーズ 

早々と満席になり、お申し込みを締め切らせて頂きました。ご希望に添えなかった皆さま、申し訳ありません。

 

浮世絵から印象派佐伯祐三、GUTAIまで         

深く学べる“21ワンモア カフェ”

大阪中之島美術館の2021年度オープンにちなんで、この1,2,3月と3回シリーズでの講演会。お申し込みのふたを開けてみると、参加者に大手企業の社長や、マスコミ、美術関係などの著名人も数多くいらっしゃいました。経済人やプロの画家にリベラル・アーツとしての美術史と絵画を語るのは小生の念願でしたから、そこからどんな化学反応が生まれるか、今からワクワクしています。

 

美術評論家/美術ソムリエ 岩佐倫太郎