【2021 ショパン・コンクールの入賞者を占う】

(これは2021ショパン国際ピアノコンクールでファイナリストたちの最終結果が発表される前日の10月20日に、自分の予想を書いたものです)

 

ショパン・コンクールの入賞者を占う】
 
タイガースの優勝は相当厳しくなったが、ピアノの世界で僕が優勝を期待している日本人たちがいる。舞台はいまポーランドワルシャワで開催中の、「第18回ショパン国際ピアノ・コンクール」。本大会出場の87人から3次にわたる予選を勝ち上がって先日ファイナリストに残ったのが12人。日本人では反田恭平と小林愛美の二人が選ばれているのだ。本選(決勝)は現地の18日から20日まで争われる。おそらく日本の21日の朝には、優勝者と6位までの入賞者が発表されるのではないか。
 
コンクールに出掛けたりネットで聞いたりして、自分で採点して優勝者を見つけるのが、近年の僕のひそかなマイ・ブームになっている。ただ、今回は大規模な講演会が明日に控えていて、寝ずに頑張って本選のオーケストラとのコンチェルトを聴きこむ余裕がない。12人のうちから一体誰が優勝するのか?そこでいささか乱暴ではあるが、選ばれた12人の3次予選のyoutubeから、優勝の行方を占ってみることにした。
 
まず僕の◎は、順不同でポーランドのクシュリック、日本の反田恭平、小林愛実の3人。クシュリックの、ショパンを手のうちに入れた老練なピアノは一頭地を抜いている。反田はこの春、堺のフェニーチェで聞いてすっかりファンになって、早くからこのコンクールでの活躍を僕も期待していた。小林は2015年の前回もファイナリストで残ったが惜しくも入賞を逸した。TVの「情熱大陸」でも取り上げられていたが、今回の3次の小林を聞いてみると、前回とは別人のごとく深みを増し、「24の前奏曲」の音の彫琢の深さは見事で、ショパンの持ついち早い近代性を良く表現していた。潔い覚悟のようなものがうかがえ、僕は尊敬の念を抱いた次第だ。
 
さて、その次の〇となると、ポーランドのパチェレック、カナダのリュウ、黒▲は、スペインのガルシア、イタリア/スロベニアのガジェヴあたりか。あくまで私見である。
 
ところで僕のイチ押しの反田は、すでにオーケストラとのピアノ・コンチェルト(ピアノ協奏曲ホ短調第1番)の本選演奏を終えていて、彼のだけはyoutubeで見た。一番の印象は、ちょっと意外でもあったが低音が良く鳴って分厚いという事だ。左手がよく歌い、時に右手と全く別の曲を演奏しているかのような気にもさせられる。調べてみたら彼は左利きなんだそうだ。この低音の重厚さゆえに、ショパンは奥行きを深くする。おかげで時に高音のトレモロがあまりに美しい天上の鐘の音のようにも聞こえ(第3楽章)、思わず落涙しそうになった次第。
 
それに今回発見したのは、反田がオーケストラ感覚に秀でていることだ。ピアニストであるが、指揮者あるいはプロデューサーのように自分の演奏のハマり方を考えている。音楽の構築力とでも言おうか、全体が見えていて、単にリニアにメロディを弾くのでない立体的な知性を持っているのだ。ピアノ主体で弾いているときも、ピアノ一台でオーケストラとして役割を全て果たしているような感覚がある。それ故オーケストラとも良いリレーションシップでシームレスにつながり、なおかつイニシャチブを発揮しながらコンチェルト全曲を弾き切ったと思う。終了後、指揮者が尊敬する芸術家を遇するかのような態度で若い反田をねぎらっていたのが印象的だった。
 
 
僕の勝手な予想だが、ポーランドのクシュリックが、ワルシャワ交響楽団と信じられないようなケミストリーを起こして観客を熱狂させた場合彼に分があるだろう。審査員も巻き込まれますのでね。ほかにも決勝で爆発的な演奏を発揮する人がいるかもしれない。もしそうでなければ、丁度2015年優勝の韓国のチョ・ソンジンもそうだったように、反田の包容力のある客観的な演奏がショパンへの謙虚なリスペクトとしてまず認められ、次いで構築的な音楽性と熱量を併せ持つ新しい演奏の形に評価が向かうに違いない。(2021年10月20日)