①モナ・リザは、本当に美しいでしょうか?

「この名画はなぜ名画なのか」シリーズ 第6回 

ダ・ヴィンチモナ・リザ》① 

モナ・リザは、本当に美しいでしょうか?

パリのルーヴル美術館。世界でもっとも有名な絵画と言われるモナ・リザ(1503‐06制作)は、セーヌ河沿いの「ドゥノン翼」の建物を2階に昇った中ほどに、厳重な防弾ガラスに守られて常設展示されています。意外と小さいです。実際にご覧になった方も多いと思いますが、縦77cm、横幅53cm。レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)が1516年、フランス王のフランソワ1世に招かれて居城と年金を与えられる厚遇を受け、亡くなるまで肌身離さず手許に置いたという作品です。彼の死後、フランス王室が買い取り、フランス革命ののちルーヴルで一般公開されるようになります。

ところでモデルとなったモナ・リザとは誰なのか?フィレツェの豪商ジョコンドの夫人、リザであるとの説はダ・ヴィンチの少し後の時代の伝記作家で画家・建築家でもあるヴァザーリの記述に基づきますが、ほぼその見方が定着しています。

さあ、それでは「モナ・リザは本当に美しいのかどうか?」という本題にいよいよ入ります。僕は昔から、この絵を美しいと思えませんでした。一瞬マリア像を思わせるものの、むしろ不気味ささえ感じていました。ダ・ヴィンチの絵を美しいとする人の説明はたいてい、「天才ダ・ヴィンチの名画だから」とか、「有名だから」とか言うもので、あまり説得力を感じませんでした。また不可解なことに、美術の専門家ですら、「謎めいているから美しい」などとムリヤリな論を展開して、「美しい!」と思い込みたがっているように見えます。でも近年、僕が至った結論は、「モナ・リザは別に美しくない、それでいいのだ!」と、天才バカボンのおやじのように達観しています(笑)。

というのも、ダ・ヴィンチは鑑賞の対象となるような美しい絵を描こうとはしていないからです。絵の目的が違う。ダ・ヴィンチは画家である前に99パーセント科学者であり発明家です。そう言う根拠は今も5千枚以上残る膨大な「手稿」です。手稿とは、文章と挿絵による手書きのノートのこと。万能の天才が宇宙の森羅万象に関心を寄せ、天文、地理学上の観察と仮説、あるいは人体の解剖図、建築・土木の発明などを記録したものです。3分の2が散逸したと言っても、5千ページというボリュームは単行本の何百冊かにゆうに匹敵します。まさにルネサンスの偉業、大金字塔です。逆に絵画作品は有名な割には驚くほど少なく、生涯わずか15点程度しかないのです。

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それではなぜ科学者で発明家のダ・ヴィンチが、モナ・リザのような絵をわざわざ、ポプラ板に絵具で着彩して描いたのか?まさか日曜画家のように、忙しい本業の合間に趣味として絵を描いたのではない筈。ここから僕の推理は始まります。ダ・ヴィンチにとって絵とは何であったのか?手稿と油絵の関係は?モナ・リザに隠されたメッセージとは何か。次回、モナ・リザの読み方について、おそらく驚きの私論を開陳します(つづく)。

 

岩佐倫太郎 美術評論家/美術ソムリエ