「色から読み解く西洋名画~ダ・ヴィンチから、マティスまで」その②

■黄色とブルーの補色づかいは、ゴッホが始めた】(5・27講演会の一部ご紹介)
《カラスのいる麦畑》は、精神を病んだゴッホが南フランスからパリ北郊に移り住んで、ついにピストルで自死を図るその2週間前に描かれた作品です。アムステルダムのファン・ゴッホ美術館が所蔵しています。厳密には絶筆とは言えませんが、ゴッホが最期に見た景色として世界中の人に知られます。僕もファンの一人として孤絶と希望がないまぜになったこの麦畑の絵を、多大な愛惜とともに記憶しています。
絵でとくに注目していただきたいのは、「黒いカラスは不吉かどうか、死の予兆なのか」といったことよりも、ゴッホが毅然たる確信をもって使いこなす黄色とその補色であるブルーの組み合わせの斬新さです。ゴッホはヒマワリの絵でも知られるように、黄色の色づかいの名手です。ふつう黄色は妙に目立つので画家にとって使いにくい色のはずですが、彼の場合ためらわず大面積を黄色が占めるような画法を敢行しています。黄色いひまわりのバックもまた黄色といった絵さえありました。

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ゴッホはおそらく「色相環」の研究をして、黄色と補色の関係にあるブルーとの実に独創的なカップリングを生み出したのだと考えています。

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それを明らかにするために、試しにモザイクをかけてみました。こうなると空間性は失われ、何を描いているのかと意味をまず問う普段の絵の見方ができなくなります。ゴッホの絵が余計なディテールの説明を省いて、大胆にもブルーと黄色のツートンで画面を断ち割っていることが、明るみに出ます。あとの色は、せいぜい緑と白だけ。浮世絵のような少ない抑制的な色遣いで、ゴッホは戦略的に絵を組み立てているのです。
ゴッホを狂人と思っている人もいるかも知れませんが、インテリの読書家で浮世絵の大ファンで、キリスト教の説教師の息子ながら、日本的な親自然の宇宙観を感受した人です。この辺を紐解いていくと、ゴッホの色の秘密がさらに見えてきます。
 
最後に付け加えると、このブルーと黄色は、偶然ですがウクライナの国旗の色です。悲惨な戦火が収まり、青空と平和が早く戻ることを切に願っています。
 
 
 【岩佐倫太郎、美術講演会@大阪中之島美術館 ごあんない】
「色から読み解く西洋名画~ダ・ヴィンチから、マティスまで」
5月27日(金)13時30分~15時10分(開場は13時)  
大阪中之島美術館1階大ホール  受講料:3500円(税込み)
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