モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」に2日連続で出かけました。

モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」に2日連続で出かけました】

佐渡裕芸術監督がプロデュースするオペラ・シリーズは、関西のオペラ・ファンが毎夏、心待ちにするもので今年(2023)でもう18回目。去年はプッチーニの「ラ・ボエーム」、その前年は桂文枝師匠も登場した「メリー・ウィドウ」など、西宮の兵庫県芸術文化センターが聴衆の熱気で大いに沸いたのはまだ記憶に新しいところです。
さて今年の演目は、モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」。ドンファンと言えば解る人も多いかもしれない。女性の千人切りで有名ですよね。まあ、ただの並外れた好色漢

2023/7/17日本人組のカーテンコール。中央がマエストロ佐渡裕 向かって右へ大西宇宙、高野百合絵

 

の艶話というなら世界は万事平和なんですが、このドン・ジョヴァンニ、欲情余って女性の寝室に姦通目的で侵入。騒ぎに気付いて出て来たその屋敷の父親を剣で殺してしまう。こうなると物語は、冒頭から陰惨なカルト劇の様相も含んで進行します。いったいこれは艶福な笑劇なのかもしくは悲劇なのか?実はどちらもなんです。35歳で夭逝するモーツァルトが、有名なオペラ「フィガロの結婚」を大成功させ、その勢いを駆って翌年に初演したのが「ドン・ジョンヴァンニ」。この時、まだ31歳でした。天才の若い頭脳が疲れも知らず、次々と湧くインスピレーションで曲を展開するものだから、スピーディかつスリリング。聴いている我々がうっかり美しさに耽溺していたら、何度も不意打ちを食らわされ、モーツァルトの音楽美の宇宙の広がりに目覚めさせられ、翻弄されるのに気づきます。劇の構成も複雑で、「女好きな好色漢が最期は焼き殺されました」といった単純な勧善懲悪のワクには収まらない。主人公も、悪意とエロスを貫徹する反社会的な存在として造形され、近代劇の醍醐味を存分に感じます。
この日は、ダブル・キャストの日本人組の日でしたが、歌手はみな確固とした実力を持ち、声量、歌唱力、演技力どれを取っても前日の外国人キャストに負けていませんでした。それゆえドラマツルギーの展開にゆるみが無く、従って進行が心地よく、よく鳴るオーケストラとの掛け合いで、われら観客は忘我のオペラ三昧境に入っていたかもしれません。
とくに父を殺された娘役を演じた高野百合絵の歌いっぷりには僕は心底感動し、思わず「ブラボー!」を叫んでしまいました。この人は「メリー・ウィドウ」で佐渡オペラにデビューし、僕もすっかりファンになって一時追いかけをしたくらい。今回、高音域はさらに自由に伸びやかになり、ドラマティコな陰影も濃くなって説得力を増し、持ち前の上背と美貌で舞台全体を力強く牽引していたように思います。ドン・ジョヴァンニ役の大西宇宙(たかおき)も、僕が注目していた人で魅力的な声質のバリトンです。去年の「ラ・ボエーム」での笛田博昭に次いで、今年も日本の若手歌手の新しい国際級スターを発見でき、将来が頼もしく感じられます。マエストロ佐渡の眼力とプロデュース力は凄いですね!改めて敬意を表します。まだ書き足りないこともありますが、長いのでひとまずこの辺で。